WINTER DAY
地上に冬至が近付くと何故か体調が悪化する。
行動に支障がでるほどではないのだが、なんとなく注意が散漫になり、疲れやすく、それでいてよく眠れない。
借り物の体を大切に管理している身分の彼にとっては、見逃せない変化といえた。
夕方会った恋人にそんな傾向はないか?と尋ねてみると、彼女は少し首を傾げた。
「…そうね、人体は所詮地上のリズムに支配されているのよ。…ラムズの習慣だけど、βカロチンを多く含む食品をとったり、添加物を入れた湯舟に漬かったりして復調をはかる…という方法があると聞いたわ。…詳しくは知らないの。御免なさい。…ヒュウガが詳しいかもしれないわ。…大分悪いの?カール…」
彼女は細い首をよじって心配そうに見上げた。
「いや、悪いってほどではない。ただなんとなく疲れがとれにくくて…少しだ。別にどうだというほどでもない。」
あわててそう打ち消すと、白くて細い指でミァンはそっと彼の頬を撫でた。
「…ヒュウガに尋ねて試してみるといいと思うわ。大事にしてね…。…心配だわ。」
「心配して貰うほどでもない。」
そのくすぐったい手をそっと掴んで外すと、ミァンは更に、
「…医者に行ってビタミン類を打ってもらうのはどうかしら。」
と言った。
「いや、本当になんでもないんだ。…心配しなくていい。有難う。」
話が大きくなりそうだったので、慌てて礼を言い、彼女から逃れるように彼はその場を離れた。
体が…よく似た何かを覚えている。
少し煩わしいほどの、あの不可思議な愛情…に、似た何か。
(…判然としない。)
それも借り物の体との同調率が下がっているせいなのだろうか。
***
部屋に戻ると、ヒュウガが居るらしい気配がした。
…珍しい。シグルドが居なくなってから、ヒュウガもこの部屋を不在にすることが多くなった。お互い不干渉をモットーとしているので、ルームメイトがどこで夜を過ごしているのか、彼は知らない。…問いつめたら、ヒュウガはきっと煩わしがって、余計逃げまわることだろう。
「…やあ、ヒュウガ。…いるんだろう?」
「…会いましたよ、今日。教室で。挨拶もしました。」
「…部屋で会うのと外で会うのは違う。」
「…」
ヒュウガは不機嫌だった。
どこにいるのかと部屋の奥に進むと、ヒュウガは自分のベッドではなく、彼のベッドにいた。うつぶせに横になり、枕に顔を伏せている。
「…具合でも悪いのか。」
「…悪いって程でもないです。」
「…冬至の頃っておかしいよな?」
ヒュウガは顔を上げた。
「あー…そうか。そうですね。」
「…ベータカロチン?」
「ああ…かぼちゃね…。…それより、欲しいものが。」
ヒュウガはそう言って彼に手を差し伸べた。
…指を絡み付かせる。
ヒュウガの指先はびっくりするほど冷たかった。温かい体温を求めるように彼の手首を手繰ってくる。
「…そこおれのベット。」
「知ってます。」
二人は抱き合ってベットの上に転がった。
「…自分の寝床より人の寝床のほうがあったかいんですよ。」
「…ヒュウガ、手、冷たい。」
「…温まらなくって…ここ2〜3日…。熱くしてやってください…。」
「男のくせに冷え性か?…好き嫌いして脂身残すからだ。」
「…小姑。」
ヒュウガは吐き出すようにそう罵ると、体位を入れ替えて上にのってきた。かみつくように唇を合わせて…それは喋りたくないときにヒュウガがよくやるやりかたで…話す隙がないほどに激しいくちづけをくりかえす。そうされると、彼はいつでも物事全部がどうでもよくなってしまう。
服を勝手に剥ぎ取られ、いいように体を撫で回される。ヒュウガの骨っぽい指はまるで死体のように冷たく、不必要に彼の体をよじらせた。
「…今日は踊りますねー…。」
「…ああ…?」
「…いいえ…なんでもないんです…」
ヒュウガは身を起こして服をぬいだ。
薄く色付く細くてしなやかな体。
そのまんなかにくっきりと立ち上がっている性器。
彼はぼんやりとそれを見つめ…ふと気が向いてそれに唇を寄せた。
ヒュウガは掠れた声をたてて、太腿で彼の頭を挟んだ。彼は借り物の体が教えてくれた甘い痺れの手管を丁寧に再現するようにヒュウガのそこを手と口で愛撫した。
口の中でぱんぱんに膨れ上がっているヒュウガのそれが愛おしく感じられて、しだいに夢中でしゃぶりはじめると、ヒュウガは立てたひざをいつしかいっぱいに開いて、更なる奉仕を要求した。
彼はおしゃぶりの幼児的な快楽に我を忘れ、ゆるい皮の包むころころと丸い二つの部分から後ろの穴まで丹念にしゃぶった。 ヒュウガの息はしだいに荒くなり、漏らす声はどこかおもねるような調子を帯び始めた。
ヒュウガは…乱れてくると、譬え様もなく可愛い。
その悶え声を聞いたり、潤んだ目を見たりすると、胃のあたりをくすぐられたような気分になった。
その手で彼の頭をしっかり抱き締め、開いた足を今度は彼の体に巻き付けて、ヒュウガはしだいにしっとりと汗に濡れていった。
「あ…あ…カール…ね…お願い…」
「…ん?」
「…なんか今日ね、…されたいんです…」
「してる…」
「…してるけど…んんっ…そうじゃなくて…っ…はあっ…はあ…はあ…」
ヒュウガはやがて坂道を駆け上がったかのように上気して、顔も体も桜色に染まった。さらに激しく舌や唇を使う彼を抱く手に力をこめて、あーっ、あーっ、と細い悲鳴をあげる。だめっ、いっちゃう、いっちゃう…激しく首を降る。
「…違っ…違うの…後ろ……後ろ…して。」
「…ああ、そうか…」
彼は口をぬぐって体を一旦ほどいた。…まるで自分の肉体の一部が剥離したように、離れた膚と膚の隙間の空気が異質だった。
真空パックのパッケージを噛み切る。横からヒュウガが手をのばしてきて、薄いゴムを摘み取る。丁寧な手慣れた手付きであっというまにそれで彼のはりつめた性器を包み込む。
「…サービスいいな…」
「…うまいでしょ…慣れてますもん…自分ので。」
二人は少し笑いあった。
軽くキスを交わして…結合。
ゴムのゼリーが交接部分を幾分自由にしてくれた。無理のない程度にゆっくりと揺さぶりあい…それでも二人は十分に解放され…。
達した。
思考の止まった真っ白な頭の中に、ぐったりとのびている美しいヒュウガの姿がただ写し出されて。
…何かが満たされた。
***
「…ね、いい匂いでしょ。」
「酸っぱそうな匂いだ。」
「食べちゃ駄目ですよ、凄く酸っぱいから。…明日あたり貴方はβカロチン、私は脂質。」
二人でバスタブを求めて辿り着いたのは結局ホテル。黄色い柑橘の実を湯に放り込んで、楽しく入浴した。…あひるでもあったらもっと騒がしかっただろう。
多分求めあっている時間は短く…またヒュウガは部屋を出て行き、彼は女の手の中に戻るのだ…そういう自覚はあった。二人慰めあって暮らすにはお互い個性が邪魔だったし…シグルドという傷は深すぎた。
それでもその日二人で過ごせたのが嬉しかった。ヒュウガがこの借り物の体に体温を求めて戻ってきてくれたのが…嬉しかった。
「…女の体は生ぬるくてね。たまには熱い体を抱かないと。」
ヒュウガはそう言って笑った。
深夜にホテルを出ると、通りはひっそりとしていた。人通りがないのをよいことにこっそり手を繋ぐと、ヒュウガの手はとても温かくなっていた。
19ra.
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