いかにもお忍び、という風情で彼はグラスを傾けていた。
アヴェのごく一般的な商人の服は、彼を不思議と若き実業家のように見せ…どんな格好をしていても隠しようのないその美しさを、異国情緒というスパイスで殊更に飾りたてていた。
そんな彼を見ると、ついふらふらと近寄ってしまうのだ。
大して愛されていないのは知っている。いつも彼の一番の相手は別の誰かで、その一番手にしてもいままでしばしば入れ代わっているのだ。三番に抜かれた記憶もある。
それでも欲しくなる。
その不思議な生き物をいじってみたい。…そう感じると、抗うことができない。
「…珍しい格好で…誰かと思いましたよ。」
隣に座って小声で言うと、五月蝿い女でも見るかのような目で、彼はこちらを見た。
黄金色の瞳が酔いに濡れている。
ヒュウガが酒を頼むあいだ、彼は眉をひそめたままこちらを見つめ続けていた。
泥酔しているのだな、とヒュウガは思い、黙ったままで待った。珍しい。真面目な男が、そんなに飲むとは。
「…ああ、おまえか…。誰かと思った…。そっちこそ珍しい格好だな。」
眉間の皺がふっとほどけて、カーラン・ラムサスは珍しく優しい顔になった。そして甘えるような口調で言った。
「…メガネは顔のいちぶだぞ…みだりに外すな…。…ミアンかと思った…」
「どうしたらあのナイスバディの女性と私を勘違いできるのか教えてください。」
「体じゃない。目を見るンだ…ばぁか。」
そう言って気持ちよさそうにけらけらと笑った。
「…けんか、したんですか?」
そう尋ねると、耳の横あたりで手をぱたぱた振る。…否定。
「…何のむんだ?スーパーバルト?それメチャメチャ太るぞ。」
「…そして物凄くヤバく回るんですよ。知ってますとも。」
「ヒュウガ。」
「はい。」
「…それを飲んだら俺を宿に放りこんでくれ…。もう30分前からすでに動けん。」
「…いいですけど…どうしたんです一体…そんなに飲んで…」
「…今、城に寝泊まりしててな…」
「ええ。」
「…あそこ、シグルドの留守宅だ…知ってたか…?」
ヒュウガは返答に窮した。
「…しってたんだな…?」
酔っぱらっていてもカールの追及は鋭かった。
「…またか…」
彼は呟いてくすくすと笑った。
「…また俺だけが知らなかったのか…」
仰のいて笑う…喉の白い曲線が美しい。
ヒュウガは酒を口に運んだ。
弟の教育としりぬぐいに余念のないシグルドは活き活きと元気に暮らしている。
カールを泣かせた事などとっくに過去にして。
なのに…カールはといえば…
今もなお、こんなに生々しい傷口。
「あははは、ヒュウガ、眉間がじじいだぞ。じじいは法院送りだ ! 」
いきなり眉間を指でぐりぐりやられて、ヒュウガは苦笑した。
「…うぬう、飲み過ぎた。」
「わかってるんなら結構ですとも。」
なんだかんだ言いつつ、千鳥ではあったものの、彼は自力で歩いた。ただ方向はまるでわからなかったらしく、ヒュウガに連れられるままに疑いもなくついてきた。
どんな宿に入ったのかも分かっていない様子だ。途中で買った瓶入りのレモン水を渡すと、赤ん坊のように無心に飲んだ。
「…おいしいですか?」
「ああ。」
「…服、自分でぬいで。」
「ああ。」
ああ、といいながらごろりとベッドに横になり、ヒュウガのそでをひっぱる。
「脱がせてほしいのですか?」
「…うん。」
「…」
ヒュウガは黙ってカールの胸を開いた。
大理石に刻みたくなるような鍛えられた胸がのぞく。真っ白な肌をアルコールがまだらに赤く染めている。
砂漠の街の夜の寒さに、その体が震えた。そして当たり前のように腕がのびてきて、ヒュウガをその胸に抱き締めた。
懐かしい匂いがした。
「…放して、カール。まだあなた一枚も脱いでないですよ。」
「…う…ん。全部…。全部脱いで寝る。」
「脱がせてあげるから放して。」
「いやだ。寒い。」
「すぐあったかくしてあげるから。」
カールは手を放してむっくり起き上がると、実にてきぱきと服を自分で脱ぎ…容赦なく全部脱ぎ…再びばったり横になるなり、ヒュウガの帯をするする抜いた。
傷が痛むと女ではなく男と寝たがる…昔から変わらない。
ヒュウガは冷たい夜の空気に素肌をさらした。
酒臭い唇を重ね合い、舌を絡める。酔っぱらいは夢中で吸って来た。舌がちぎれそうなくらい…飲み込むようにして奪おうとするヒュウガはその酔いに咲いた白い肌を、隅々まで撫でてやった。甘えた調子でカールが笑う。
「あー…酔ってると勃たんな…」
「あなたは勃たなくていいですよ、別に。」
「うーん?そうか…?」
「ええ。…気持ちいい?」
「…うん。」
「…それならいいのです。」
「…うん。」
うん、と何を納得したのかうなづいて、ヒュウガの手に体をすり寄せてくる。
セックスがしたいわけじゃなく、子供のように甘えたいだけなのだ、この男は。
再び唇を探し当てると、また貪るように舌を吸ってくる。
ヒュウガはそちらはされるにまかせ、手を足の内側から尻の割れ目にすべらせた。
身悶えしてよじれる腰を両手で撫で回し、後ろの窄みを指先でそっとさぐった。
「うんっ…」
ビクッ、と良い感度で反応があった。体中の粘膜が酔いに開いているのだ。指の腹で優しくそこを探ると、指の動きに忠実に合わせて喉が震えた。面白いので、ヒュウガはしばらくそこをそっと擦り続け、彼を鳴かせた。彼はじっと耳をすますようにその愛撫を味わいつくし、動物のような敏感さでそれに応えた。
ひくひくと震えるその入り口に舐めた指をさしいれると、すんなり根元まで入り込んだ。くいっと手前に指を曲げ、そこに触れるこりこりした部分をくすぐると、今までとはまったく違ううめきをあげて、彼は身をかたくした。そのままくすぐりつづけると、緩やかに前のものが立ち上がり始めた。
「…勃つじゃないですか。」
「…う…んんっ…」
「一緒にイきましょうよ…カール」
「…殺す気かっおまえは…酔っぱらって全力疾走したらどうなると思うんだ…」
「大丈夫ですよ…他の誰でもない、カーラン・ラムサスだもの。」
ヒュウガは擦りあわせるように体をずらして、その色付いてぬれる愛しい先端をちゅるちゅると吸った。
「ヒュウガ…」
「…んっ…」
「…出る…」
「…我慢して…まだ…。」
「苦しい…」
…ヒュウガは口を放して少し待った。
息が落ち着くのを待って、また後ろのほうをいじりまわした。
「…駄目ですよ…今日は挿れるんだから…まだまだ。」
「やめろ…本当に死にそうだ…」
「やめない。」
「ヒュウガっ…」
膝を担ぎ上げて、自分の熱く硬くなった部分を中に押し込む。
「あ…あ…」
息を震わせてカールは甘い声をもらした。中は酔いのために、熱い。
「ヒュウガ…んっ…」
「入りましたよ…。」
いっぱいにひろがって肉を受け入れているそこの周辺を指先でそっと触れてやる。
するとそこはきゅうきゅうとヒュウガを締め上げた。
「あ…ああ、カール、いけません…そんなに…」
「どのくらい入ってる?」
カールの手が結合部分をさぐる。
「あ…ん…っ…んんっ…カール…全部ですよ…全部…。ダメ、そのへんはもう…」
「あ…こんなに入ってるのか…」
「…くっついてるでしょ…。」
「うん」
カールはゆっくりと腰をよじった。
「はあ…あ…んっ…」
ヒュウガも動きを調和させる。
「…はあ…はあ…はあ…あ…はあ…」
近付く唇のあたりで荒い息が混ざりあう。…ふさぎあったり、離れたりする唇。
もう言葉は出ない。
二人は繋がりあって夢中で揺さぶりあう。しっかりと嵌ったプラグは食い合ったまま外れず、入ったモノは腰をまわすたびに中でぐりぐりと角度をかえて暴れ、受け入れた内部は女の性器のように湿った。吐息から次第に声そのものが消え、動物的な激しさだけがましていき、混じりけのない性の興奮がむき出しに擦れあい、恐れも遠慮も容赦もなく高めあい、肉がこもった音をたててぶつかり…
濁音の呻きをあげて二人は互いを濡らしあった。
空白が訪れる。
体がほどけて原形質に帰ってしまったかのような絶対の空白。
(死というのもこういうものなのだろうか…悪くない…。)
その思考がきっかけで、正気が戻って来た。
カールは傍らで死んだように仰向いたまま、まだ目を固く閉じている。
呼吸に合わせて上下する胸を、そっと撫でてやる。
「…生きてますね。」
「…」
下腹のあたりに濡れた感触。カールの漏らした精液のぬるみ…。
妙な陶酔感が残っていた。
「…女連れで来てるわりには溜め込んでるじゃないですか。」
ヒュウガは手でそれをぬぐいながら少しからかった。
「…」
返事はない。
「…カール…?」
…意識が落ちているらしい。
「…まずい…」
ヒュウガは手を拭うと、灯りをつけた。
しかし青くも赤くも白くもない顔で、カールは浅い呼吸をしていた。
…眠ってしまっただけのようだ。脈も正常だし、あちこちいじっていると、煩わしそうに寝返りをうった。
ヒュウガはほっとして、その美しい背中の近くに、裸のままの尻で座った。
「…少しはあったかくなりましたかね…?カール…」
小声で尋ねて頭を撫でても、カールは目を覚まさなかった。
夜明けの頃に起きたカールは遠慮なくヒュウガをどついて起こし、とっとと服を着込んで、その美しい体をしまいこんでしまった。懐を探って宿代を探している様子だったので、ヒュウガはなにやら買われた気分になり、少しふて腐れて、自分が払っておくと申しでた。
「…おまえ、今何の任務についてるんだ?おごるほど自由になる金があるのか?」
クソ面白くなさそうな顔でカールが言った。
「宿代おごる程度にはありますとも…。なんだか貴方に払われると、買われたみたいな気分だから。」
「…じゃあワリカンにしよう。」
…大真面目…どころか少し怒ったような顔で言うので、ヒュウガは苦笑して承知した。
起床時刻までに戻る気なのだろう。カールは話がつくと、金を置いて立ち去った。
数えると、子供さんがたに土産が買えるほどに多かった。
「…買われたのでしょうか…それともあの人、安い宿に泊まった事がないのでしょうか…」
ひとりごちてみたところ、どうやら朝日が登ったらしく、窓から光が射して来た。
安い連れ込み宿の汚さが目に染みる。
(今の本当の任務を白状したりしようものなら、「また俺だけ…」と拗ねるのだろうな…。)
ヒュウガはそう思い、ため息をついた。
妙に甘いため息になったので、今度は少し笑った。
19ra.
ちょうどこれを打っているとき、某所でアラビアのロレンスのコスをカールにさせるのはどうだろうという話が出て、心臓がとまりそうになった…笑。19ra.