BED TIME 2


 今日という今日は絶対に許さない。
 その固い決意のもとにカーラン・ラムサスは勢いよく自室に戻った。
 扉があくか開かないかのうちに、腹に力を込めて叫んだ。
「ヒュウガッ! きっさまやるに事欠いて俺のIDで灰禁書閲覧しおったな !! 」
 その怒声をやけにかわいいセクシーヴォイスがのっけからかき消した。
「あああん、いや…いや…いや…シグルド…いやああっ…はあ…ああ…」
「…あ、おかえりカール。…とりこんでるけど、…ちょっと待つ? それとも、一緒にする?」
 シグルドがあっけからんと尋ねた。
 こちら向きで椅子にかけているシグルドの膝の上に、ヒュウガの果物のような尻がのっかっている…のみならず二人がシグルドの黒っぽい器官で連結しているのが大変よく見えた。カールは思わず持っていたテキストを二人に投げ付けた。
「昼間っからセックスするなとあれほど言っただろうが !!!!!!!」
「いいじゃん夕方なんだし。…したいんだもん、仕方ないじゃん。」
「…んん…シグルド…もっと…もっと…」
「…かわいいなあ、ヒュウガ…んっ…」
「んんっ…」
 やめる気配もなく二人は舌を絡めあった。ヒュウガの肩の上で切りそろえた髪が、悩まし気に細いうなじを見えかくれさせている。
 カールはがっくりしてそのまま引き返し、部屋を出た。

 食堂でしばらくふて腐れているとシグルドが迎えに来た。
「…カール、ごめん。」
「…いい加減にしろお前ら。」
 シグルドは肩を竦めた。そして尋ねた。
「…灰禁書って、…。」
「さっき呼び出しくらって行ってみれば覚えのない濡れ衣10枚ばかりも着せられてな。…地上採取の本ばかり…。」
 学生の図書の閲覧は管理されている。個人別のIDによって記録が残り、思想的に片寄りありとみなされると、呼び出されて面接が行われる。「黒」の判定がおりれば更正プログラムが組まれる…洗脳、だ。
 灰禁書というのは学生たちの間で噂されている「ヤバい本」の通称で、誰が統計をとったのか知らないが、ジャンル別リストが回って来ていた。リストにのっている本をジャンル内で6・7册重ねて読むと面接される…という噂だった。
 そんな片寄った本をまとめて5册以上読む奴もよっぽどの物好きだ、とリストを見た時思ったものだが、いちいちそんな馬鹿げた管理をやっている上層部もよほどの暇人の集まりな気がした。そんなことをやるより重要なことは山程あるはずだ。実際面接を受けさせられて、その観はますます強くなった。
 するとシグルドがぽとッと言った。
「あ…それ、俺だわ。ごめん。」
 驚いてシグルドを見ると、「てへっ」という顔でシグルドは頭を掻いた。
 おっとりした育ちの良さそうな男なのだが、やることはいつでも桁はずれ…それがシグルドだ。
「…お前な…」
「でも自分のIDだよ?カールのIDなんか知らねえもン。…本当。」
 シグルドはとかく誠意に関しては他に譲らない部分がある。
 だまっていると、シグルドは書名をどんどん挙げた。…間違いなかった。
「…どうしてカールのとこなんかに…。先輩かな…。」
 かもしれなかった。
 シグルドは被験体上がりという付箋つきだ。マイナスがかさむとまずい。それで一計を案じてカールに肩代わりさせたのやも…。それならそうと一言言ってくれればいいのだが、なにしろあの先輩も弾けたオトコで、鋭くも正確な処置でありつつ乱暴なやっつけ事、というとんだアンビバレンツな仕切りっぷりなのだ。
「…あのリスト作ったの先輩らしいよ。…ラケルさんが教えてくれた。」
「…そうなのか。」
「先輩洗脳とか嫌いだからな。」
「ああ…ではいずれにせよ、ヒュウガについては濡れ衣の使いまわしだったということだな…」
「…うん、濡れ衣転嫁。…怒ってるらしい。黙っちゃった。」
「…おまえらが昼間っから繋がってるから悪いんだ。」
「…見るより先に怒鳴ってたくせに…」

 部屋に戻ると、ヒュウガはベッドで横になっていた。
 …さっきは半分服を着ていたのに、なぜか全裸になっている…ような気がする。毛布がかかっているので、胸から下は見えない。細い独特のボディラインがくっきりとケットに浮き出ていた。
「…黙ってないでなんか言いなさいよ。」
 言葉を探すカールに容赦なくヒュウガはそう言った。
 本当に怒ると鬼である。…少女のような柔らかい頬をしているのに。
 情事のあとなので、いつもかけている重そうな眼鏡をはずしている。
 いつもはレンズの奥に秘めている、何もかも見尽くしてしまった女のような暗い美しい瞳が、真直ぐにカールを睨んだ。
「…犯人はシグルドらしい。」
「…それはシグルドに聞きました。」
「…風邪をひくぞ。服を着ろ。」
「…何か他に言う事はないんですかね?」
「…服を着たら飯を食いに行こう。」
「行きません。」
 後ろでシグルドがげらげら笑った。
「許してやれよ、ヒュウガ。」
「あなたがそうやって甘やかすからいけないのですよ。カールがロクデナシに育ったらあなたとミアンのせいですからね ! 」
「んーもー、修道院のシスターみたいだなあ、ヒュウガは。…カールは飯なんかすんでるんだぜ、おれたちがノボリツメテル間に。…それともしたりなくて拗ねてるのか…?」
 シグルドが最後の問いを優しく発すると、ヒュウガは少し眉をハの字気味にした。…泣きそう…かもしれない。カールは内心ひどくあたふたした…が、見ている者にはわからなかったことだろう。
 ヒュウガは指を噛んで言った。
「…服なんか着ません。ぜんぜん足りないんですから。…ぜんぜん。」
 …何かが胸の中で弾けた気がした。
 身をかがめてくちづけると、ヒュウガにベッドに引きずり込まれた。胸元のジッパーを勢いよく下げられ、股間まで開かれてしまう。皮をはぐように手を差し入れられた。脇から袖の中にまで入り込んで来て脱がせようとするヒュウガの手。
 後ろからシグルドがカールの服を剥ぎ取った。
 ケットをめくるとヒュウガの滑らかな肌がまばゆくカールを出迎えた。胸の小さな突起を吸うと、ヒュウガの腕がカールを抱き締める。
「…お部屋に帰って来たら、ただいま、ですよ、カール。」
「…ただいま…」
「…おかえりなさい…」
 ヒュウガの胸や腹に吸い跡をつけていたら、シグルドがベッドに上がって来た。二人はシグルドを挟んで抱き合い、その褐色の甘い体を二人がかりで舐めまわした。シグルドは楽しそうに悶え、笑いながら二人ともつれあった。
 やがてシグルドはカールを仰向けに横たえて、ぐいぐい中に入ってきた。声をあげて受け入れていると、目の前にヒュウガの顔が逆さに現れた。名前を呼ぶ唇を愛し気に一瞬塞ぎ、這うように首から胸へと登ってゆく。つぎつぎ現れるヒュウガのみぞおちやへそを舌先でくすぐり、やがて茂みに鼻先を埋め…膨らんだ性器を口に含んだ。そのときにはカールのそこも、濡れた温かいところにおさまって、ヒュウガの舌にもてなしを受けていた。ヒュウガの後ろにはシグルドの長い指が入りこんでにちにちと蠢いているのが見えた。カールは歯をたてないように口を開いてヒュウガのものを丁寧にしゃぶりまわし、シグルドと手を重ねるようにしてその指のわきからヒュウガの中に指を潜り込ませた。
 ヒュウガの甘い悶え声を合図に残り二人も次々と果てた。

「…おなかすきました…」
「…もう学食仕舞ってると思う。」
「…出かけて夜食でも食うか。」
「カール…食ったくせに…」
「カロリーは使えばなくなる。」
 なぜか三人きゅうきゅうつめになってシャワーを使い、髪をかわかした。
「…髪、いつ切ったんだ、ヒュウガ。」
「さっき寮にもどる直前に。…やっぱり変…?」
「いや、色っぽい。なかなか。」
「そうそう、うなじがちらちらっとして、いいよ、すごく。…燃えたー。」
シグルドがカールに同意して笑うと、ちょっと困ったようにヒュウガはうなじに手をやった。
「…あのね、図書のID…一番違いなんですよ、シグルドとカール。」
「え?」
「あ…そういう…。なんだ、じゃあ…うち間違えたのか…俺。…そうだよな、先輩がそんなマメなことするはずないし。」
 カールが一瞬考えているうちに、シグルドはさして気にするようすもなく納得してしまった。カールは慌てた。うちまちがい、とかそういうレベルの問題ではない。
「…ちょっとまて、なんでお前は俺とシグルドのIDナンバー両方知ってるんだ?」
 しかしヒュウガにはまるっきり無視された。
「何食べます?パスタ?」
「俺なんか肉くいたいな、肉。」
「ちょっとまて! 答えろ!」
「うるさいなあ、何だって知ってますよ、貴方のつむじの場所とか手相がバッテン型だとかかるく左曲がりだとか。…私今日機嫌よくないんですよね、髪は短すぎるしシグルドには途中でふっとばされるし、カールは帰って来るなりただいまも言わず怒鳴って物投げて、そのうえ誘っても一回で来てくれないし。」  
「…やりなおしたうえにカールつれてきたんだもん、いいだろー。」
「左曲がりとかはともかくIDは…!!」
 …後日よくよく調べたところ、一冊だけ「大極的エーテル操作秘術」というシグルドの身に覚えのない本が混ざっていたことが判明した。
 たかが一冊自分のIDで見たら良い、とカールが激憤すると、シグルドは
「…奴のバアイは単なるお茶目だと思う。」
とコメントして、カールを再びがっくりさせた。      

                               19ra.


 なんか・・・今ヤオイの神様がおりてきてる・・・。19ra.


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