全国のペントハウスファンのみなさまこんにちは!

なんとデスクトップを整理していましたところ、

かようなブツがでてまいりました。

よく読んだら日向くんがまだ高校生だったときのなんです。

すごいわ!さすが日向くん!

(てゆーか日向くんてこんなダークな人じゃなかったような...汗。

なんかペントハウスとしては失敗作だわ...汗。)

でも若月さんに報告したほうがいいかしら...ということで、

アップしてみましょう。

書いてた時期とか不明なんですが

ベットタイムの3と4の間くらいに書いてたらしきファイル名がついていました。

おそらく今アップしはじめたオリジナルとネタがカブっているので

お蔵入りしたのではないかとか思われますが

おぼえてないんです...大汗。

それはさておきやっぱこう

なんつーか、さすがに古い奴はアツイです。

では幻のペントハウス未発表号外「ライチ」をどうぞ。


ライチ


 うたた寝の夢から目を覚ますと、ぱち、と時々小さく固い音をたてて、同じベッドの一方で、日向が何かしていた。
「…何食ってるんだ?」
「…ライチ。」
 微妙な大きさの白い果肉に、日向は可憐な唇でちゅうちゅう吸い付き、わざと淫らな仕種で果実を舐め回した。
 黒いシーツの上に白い皿が置いてあって、松ぼっくりがアルマジロ化したような実と、その固い殻が皿の上に散乱している。
「…どんな味だ?」
「…もやしを甘くしたような。」
「旨いのかそんなもの?」
 すると日向は笑ってカーランに覆い被さると、果汁で濡れた唇を、カーランの口におしつけてきた。油断していたカーランの唇を割って、譬えようもなく甘い舌が潜り込んでくる。
「…どう?」
「…お前が旨くてわからん…」
「うふふふふふふふ」
 日向は楽しそうに笑い、パクリ、と殻をわって剥ぎ、白い微妙な硬さの果肉を、カーランの唇に押し付けた。甘い果汁が口の横を伝いかけ、カーランは慌ててそれを吸った。
「…触感と味が合ってない…」
「形がいいでしょ、これ。」
「…いやらしい…」
「…興奮しない?」
「…お前がそうやって手当りしだい果物でフェラチオするから、俺はイチゴにしろプラムにしろ林檎や梨や桃に至るまで見ると勃つぞ。」 
「どれどれ」
 日向は黒いシーツの中に手を入れて、カーランの足の間のものを優しくかつしっかりと握った。 カーランは黙ってするにまかせている。
「…勃ってない。嘘つ…あ。」
 日向に握られてゆっくりと息づきはじめたそこ。日向の目がとろん、と潤む。
「ふ…」
 日向はシーツを勢いよくはぐった。黒いシーツに浮かび上がるカーランの白い体、そしてその中心部で、色めくもの。
 日向が甘い唇でそれをしゃぶりまわす。透明な果汁をもらしながら、それは日向の口を犯した。いっぱいに開かれた可憐な唇。
 投げ出された甘い果実がシーツに染みをつくる。肌触りのよい絹のシーツが肌をなでるたび、んん…と声を立てながら日向はカーランを吸わぶる。
 切りそろえられた髪がうなじにさらさらと揺れていた。夢見心地で、カーランはその淫らな生き物を愛撫し、愛撫されて…はじけた。

「何度来てもいい眺め。」
「…お前…いくら最上階だからって、裸で窓に立つな。」
「じゃニャンコで隠そう。」
 週末は泊まり掛けで入り浸りの日向にすっかり懐いている猫は、だららーっと抱き上げられても別に抵抗しない。先日大福を与えられてすっかり日向の下僕。だからというわけではないが、犬のほうは飼い主に同情的だった。犬は貰いもの、猫は拾い物だが、躾好きで世話好きのカーランがいっぱしの座敷ペットに育て上げた。
 30Fのペントハウスの住人は、カーラン、犬、猫、…以上だった。
 親はいない。大分昔に死んだ。貧乏でけちくさい外人だったらしい。カーラン自身もよく覚えていない。このマンションは、なにを隠そう宝くじでかったものだ。親の遺産ではない。親はカーランに母国語の断片さえ残さなかった。まったくけちな親だ。
 日向はどこぞのぼんぼんだ。でかい家の大家族の気が遠くなるほどいる男ばかりの兄弟の、末っ子。新聞配達のバイト時、毎朝なにやらかなり上品なアタックをくりかえしてきていたのだが、電話番号を教えた途端かなり雰囲気が親密になり、あっというまに懐に滑り込まれた。部屋に上がりこんだと思ったらバスルームにまであがりこまれて、気がついたら二人ですごいことになっていた。この可愛いオカッパ頭の中身はかなり変態な脳みそがつまっているのだ。「エスプリ。」の一言で持ち込まれた誰にも見せられない大人のおもちゃの数々がその逸脱ぶりを如実に物語っていた。
 猫がだらん、として情けなかったので、カーランはおもちゃばこのなかからキチンと畳まれたエプロンを取り出した。フリルがふんだんについていて、胸のところがハート型になっている。
 後ろからそれを全裸の日向につけてやった。
「あらっ、こんなものありました?」
「ありました。」
「似合う?」
「あーかわいいかわいい。」
「…もう。」
 すとん、と落とされた猫は尻尾を立てて「にゃーーーん」と日向に体をこすりつけている。
 …よくよくみたら本当に可愛い。エレガントなひねりのきいた独特の立ち姿…その腰の上で大きなチョウチョになっている白い幅広のリボン。 
「…いや、案外と本当にかわいいぞ日向。」
「本当かなあ。」
「本当だ。」
「証明して。…体で。」
 日向はエプロンのすそをつまんで、ひらひら揺らした。
「ね…カール…」
 招かれるままに体を絡める。
 肩のひもをわきに外すとかわいい乳首がのぞいて、ヒュウガはなにやら「遊ばれる新妻」のような風情となり、「ダンナ」は思わず燃えた。 

「お前現役高校生なんだろ。いいのか、週末こんなに爛れてて。」
「なんですか。たかが大検通って高校中退したくらいで兄貴づらしないでくださいよ。同じ年のくせに。兄なら間に合ってます。」
 思いきり攻撃的な反応をもらってカーランは少し気分を害した。
 日向は初めてきたころはヘヴィスモーカーだった。大家族の末っ子という重労働が彼に凄まじいストレスを与えているのは確かで、本人笑って曰く、「反抗期も半端じゃなかったですよ…」。小柄でかわいらしい細い体で、ひっきりなしに煙草を吸い…日曜の午後になると声はがらがらに掠れ…あまりに本数が多かったので、かわりになればと木の実や果物を買い込んでベッドのまわりに置いたカーランだ。日向はその趣向をことのほかよろこんで、以来煙草をすっぱりやめた。とくに甘栗やピスタチオなど置いておくとリスのように一日中皮を剥き続けた。自分で満腹になるとこっちにもってきて食べさせてくれる。…なかなか悪くない。
 日向が楽しそうに物を食べているのを見ていると、何となく安心して眠くなってくる。人に寝顔を見せるのは嫌いなのだが、それもあまり気にならなかった。
「…おまえの兄貴たちより俺のほうがつきあいやすいなら御愁傷様だったな。」
「なにが愁傷なんですかね。」
「なんで来るんだ?眺めがいいからか?誰もいなくて静かだからか?」
「あなたひとりいれば十分五月蝿いですよ。」
 話はいつだってかみあわない。
 日向はカーランの体に触ることはどうやら好きらしかった。それは、言われなくてもわかる。日向はただ体を満足させたいだけなのかもしれないとも思う。体を満足させることはそれほど批難されることでもないと思うので…不満足のあまり傾くよりましだ…日向がカーランの体を気に入っているならそれはそれで喜ばしいとは思う。だがそれだけなのかと思うと、なんとなく落ち込んだ。二人の間にしかない空気にケチがついた気分だった。いくばくかでも、なにか幸福な…救いのようなものが日向の中にもあって欲しい。ささやかでいいのだ。
 …そんな望みは傲慢なのだろうか? 結構だ。そうでなければ、カーランは日向の大切な時間をただいたずらに浪費させている「悪い友人」でしかない。まして日向が孤独な自分への単なる同情からこんなことをしているのだとしたら、やめさせなくてはいけないと思う。…一応、頭では思う。実行できるかどうかはまた別の問題だが。
 カーランは犬や猫と暮らしている人間だから、生き物の温もりのもたらしてくれる幸福を体が知っている。日向はどうなのだろうか?初めのころは当然日向も同じだと思っていた。だが近ごろは疑わしいと思う。日向のまわりには人間が多すぎるのだ。日向はカーランとは別の世界に住んでいる人間なのだ。
 正直なところカーランにとっては、日向はよく分からないタイプだった。掴み所がないし…言うこともやることもみな常識はずれだし…。一貫性もない。 子供扱いするといって怒るくせに、わざと可愛いしなを作ってみせたりもする。ときどきなぶられているような気分になった。 初めて声をかけてきたとき、中学の同期だったとか言っていた。確かにそうなのだが、話をしたのはその時が初めて。なぜ突然話し掛けてきたのかもいまだに分からない。
 …不安になる。自分はこのまま日向を部屋に置いておいていいのだろうか、という自分への疑問。日向はいつまでここに通って来てくれるのだろうか、という見通しのような日向への甘えのようななにやら悲観的なもやもやしたもの。
「なんで来るんだ、日向。」
「来てはいけないのですか?」
「…そうじゃない。」
 理由がわかれば少しは安心できそうに思うのだ。…だがいつも、うまく言えない。

 イタリア製だというバスバブルは濃いカトレアの香りがする。洗ったバスタブの底に撒いておき、湯を勢いよく注ぐ。これを使うようになってから日向はすっかり風呂好きになり、週末2泊3日の日程で最低3度風呂に入っていくようになった。…15分で外国映画のような泡風呂のできあがり。ぬるくしておくのがコツだ。長居できる。 
 「一緒に入る」のが二人の習慣。たとえ喧嘩の直後でも、必ず二人で抱き合って入る。
 耳もとでぷつぷつと微かな音をたててはじける小さな柔らかい泡はいつだって二人の噛み合わない部分を埋めてくれた。ぬるいバスタブのなかでなら、ずっと可愛い日向をのっけていられる。日向は、スポンジでやわやわと体をこすってくれたり…大事なところは手で洗ってくれたりする。髪をいじるのも好きらしく、よく洗ってくれた。
 温かい空気の中で花の香りと優しい泡に二人で包まれる至福の時間。…もちろんお楽しみに発展することもある。
 ベッドの上と同じ距離でもバスタブで聞く日向の吐息は何故かとても近く感じられた。
 いつまでもいつまでも抱き締めていたい。
 ときどき泣きたいような気持ちでそう思うことがあった。
 けれども日向は犬猫ではない。
 …無理だとわかるから、なおさらなのだ。

 土曜日の朝、やめる機会を逸して相変わらずだらだらつづけている過酷なバイトから戻ると、日向はエプロン姿で猫と一緒に猫缶を食べていた。
「…人間の食い物だってあるだろうが、日向…」
「…ジェスは一緒に食べてくれないのですよ。…私犬受け悪いのですねー。」
 帰りに市場で買って来た野菜をテーブルの上に並べると、ヒュウガはひょいと床から立ち上がって物色しにきた。そしていきなりセロリを選び、食い付いた。
「…ひゅーーーうが。洗え。ダイオキシンで勃たなくなるぞ。」
「ううううるさいなあああもーーーーおおおお。」
「それから日が登ったら服。」
「服。」
と、日向はフリルをつまんで見せた。
「…ケツとかナニのしまっとける服。」
「…じやあオムツか褌でも…」
「褌は尻が出るだろうが。」
「あ、ふかふかオムツがお好きなのですね?」
「そうは言っとらん!」
「私金太郎前掛けとか好きだけど…」
「好き嫌いじゃなくて…」
「…やけに昨日から絡みますね、カール。」
 挑戦的な口調で日向が言った。
 …そんなつもりはないのだが。
「…なんか作るから…シグルドと遊んでてやってくれ。」
「…何が気に入らないの?」
「別に」
 ぐいっと襟を掴まれて引き寄せられた。可愛いからと侮っているとこういう凄い力を発揮したりする。日向は上目使いにカーランをにらみつけた。…兄弟が多い人間は喧嘩慣れしている。
「…逃げるの?」
 その一言にむっとしてカーランは日向の手を振払った。
「気に入らないのはそっちだろうが。」
「どういう意味ですか。」
「俺の出すものに飽きたんじゃないのか?ライチ持って来たり猫缶食ったり。」
 日向は床からシグルドを抱き上げた。
「…猫缶、以前から一度食べてみたかったんですよ。うまそうだから。」
「…」
「…ライチは…」
「…さっき仕事中におまえんちのとこで何番目かしらんが兄貴に会って聞いたよ。親戚のうちで作ってるって?たくさん貰ったそうだな。」
「…まあ、そうですが。」
 その煮え切らない返事に苛立って、カーランは言っても始まらないからと言わずにいた不満を、思わずぶちまけた。
「俺の部屋にお前の家のにおいを持ち込むな ! …お前はいいさ、日曜の夜には帰っちまえばいいんだからな ! 残りの4日を俺はここで独りで過ごすんだぞ ! その4日の間、いつも俺が何を考えてると思ってるんだ!?」
 すると、意外なことが起こった。
「…あんな連中にヤキモチやいてくれるのですか。まあ、カール…」
 日向は初めびっくりしたようにそう言って、少し黙り込んでから、今度は急に笑い出した。おかしくておかしくてたまらないといった調子で長い間笑い続け、しまいには出て来た涙をぬぐう始末だった。そしてこう言った。
「よかった。わたしあなたに飽きられたのかと思っていました…。邪魔になってきたのかなあって…。初めから、入れあげてたのはわたしだけでしたからね…。なんだか気も合わないし…。わたしここに来ると物食べてばかりで…いつもあなた退屈そうにしてて…欠伸したり眠ったり…」
 笑われたうえショッキングな発言を次々にされてカーランは呆然となった。
「気が…合わない?」
「でもいいんです。眠いのは当たり前ですよね…朝早いんだもの…。」
「…退屈そう…?」
「ライチは…昔から嫌いで…でもカールのとこで食べるとたいていなんでも美味しいから…どうかなと思って食べたらけっこう美味しくて…それに皮を剥くのが思いのほかに楽しくて…ごめんなさい、親戚の貰いものなんて…残り物みたいですよね…」
「入れあげてた…?」
「…あの…でも…カールががみがみ言うのは…私とは少し趣味が違うからっていう…それだけですよね…?」
「がみがみ…?」
 カーランの頭は全くの停止状態になった。 
「俺は…そんな奴なのか?…おまえを部屋に呼びつけておきながら…自分は退屈そうにしていて…気が合わないうえにどうでもいいお前を、セックスできるからって部屋に入れて…趣味の違うおまえにがみがみ言いつつ…疲れたらとっとと寝ちまうような…そういう奴なのか…?」
「ええっ!?そ、そんな、そこまでは誰も…でも…いいのですよカール、貴方は貴方らしいのが一番なのですし…」
「大かれ少なかれそうなんだな?」
 日向は猫を抱いたまま、言葉につまった。
 カーランは近付いて、猫を取り上げて床におろした。
 日向は困ったように顔を上げた。
「…カールわたし…うまく言えません…でも…貴方が電話番号教えてくれたときとてもうれしかったし…それに…」
「…どうしてそんな奴のところに来るんだ、日向。」
「好きだとか愛してるとか…、そういう大売り出しの幟みたいな…言葉が…必要ですか?…必要でしたら…。」
「そんな御為ごかしなぞ要らん。お前が俺といて少しもよくないなら、今すぐに着替えて帰れ。」
「指図しないで下さい ! だれもそんなこと言ってないでしょ!」
「帰らないなら覚悟しろ。」
「…カール…?」
「とりあえずおまえと俺とどっちが入れあげてるか体にわからせてやる。ケツの穴がしまらなくなったらうちの犬猫どものトイレに一生住め。俺が砂を換えてやる。」
「…カ…カール…?そんな…あの…ま、真顔で言わないで下さい…」
「…とりあえず飯だ。」
 カーランはくるっと日向に背を向けた。思わずその場に座り込んだ日向の膝に、シグルドがごろごろと甘えた。

 日向はベッドルームにひきずっていかれて黒いシーツの上に放り投げられた。そしてまず頭にすごくけったいなものをつけられた。
「…こんなものありましたっけ。」
「ああ。」
「…そうでしたっけ。」
 カーランは殊更に優しく日向の頬を手で包み、
「とても良く似合う。可愛いぞ、日向。お前は世界一猫耳が似合う男だ。」
と言って口づけた。そして黒い猫耳を愛し気に撫でた。
「シグルドもびっくり…ですかね。」
「発情されて首に噛み付かれるぞ。奴はオスだ。」
 そういってカーランは日向の首の後ろをそっと噛んだ。
「あ…」
 日向はぞくぞくと震えた。
 次はよつんばいにさせられた。
「え…?え…?そんなものありましたっけカール…」
「ああ。」
「嘘ですよ ! あああっ…」
 ふわふわしたくすぐったいものを入り口に押し付けられ、日向は腰をよじった。
「動くな」
「いっ…ああっ…あっ…んっ…」
 カーランの指がそれの端をなかにグイグイ送り込んで来た。
 フェイクファーの、黒い尻尾。70〜80cmもあろうか。
「…よし、…勝手にとるなよ。…座ってろ。」
「ま…まってカール…ああ…ん」
  動くと尻尾が動いておかしな気分になった。日向は指を咬んでむずむずと尻を動かした。いいのだろうか、朝から…。
 カーランは3回に分けて朝食を運んで来た。コーンポタージュ、フルーツ入りのシリアル、牛乳の入った大きな水差し、サラダ、焼きトマト、ベーコンエッグ、マッシュポテト、チーズの固まり、…気が遠くなるような量だった。しかも和食党の日向からみれば「外国みたい」なメニュー。
 シーツの上にまずシリアルボウルが置かれて牛乳が注がれた。
「…こぼすなよ。」
「…カールは? 」
「作りながら食った。」
「…尻尾…はずしても…いいですか?」
 カーランは無視した。
 日向は困ったようにおずおずと言った。
「…あの…スプーンか…なにか…」
「食い方がわからないのか?そうか、じゃあ俺が食わせてやろう。」
 カーランは日向の後ろに座り、日向の白いリボンが交叉している背中に、自分の胸をくっつけた。日向を開いた膝の間にはさみ、尻の割れ目から優雅にのびる尻尾を、抜けないように丁寧に自分の膝の上にのせた。
 シリアルボウルを拾い上げ、ミルクにひたったフルーツのかけらをスプーンですくい、日向の口元に運ぶ。
「おあがり、日向。」
 日向が口を近付けると、スプーンを傾けて器用に口に入れた。
「…カール…スプーン…下さい…」
「…煩わしい、こんなもの。」
 カーランはスプーンを放ってトレーになげいれた。派手な音がしてトレーのうえでひっくり返るスプーン。
 そしてカーランはボウルを日向の口に近付けた。
「…あんなものはどうでもいい。さあ、シグルドみたいに、おあがり、日向。…さっき床でやってたじゃないか。」
「…」
 日向の後ろ首がほんのり赤らむのをみて、カーランは目を閉じて数をかぞえた。うでのなかで日向は身じろぎし、ゆっくりと、ぴちゃぴちゃ音を立てはじめる。カーランは目を開いてそのままそっとボウルをベッドのうえに置いた。そして体を離してベットから降りると、日向は四つん這いになってボウルに口をつけ、シリアルを食べ始めた。
「…いい子だ、日向…」
 尻の間から足の間を伝う黒い尾が悩ましい。
 卵を皿から摘まみ上げ、日向の鼻先へ持っていくと、もう一方の手で静かに日向のあごを持ち上げる。日向は薄く目を開いて、カーランの手からそれを食べた。トマトを手にのせて差し出すと、カーランの手に口をつけて、食べ終わった後てのひらを舐めまわした。ぼんやりと目を見開いて、頬は上気して赤らんでいる。カーランはその薄く開かれた唇の両端にそっとキスをして、顔についたものを舐めてやった。
 少しさめたところを見計らってスープをだしてやる。日向はもうためらうことなく広いスープ皿の底をぺろぺろと舐めた。なくなりかけたところへ小さく切ったチーズのかけらをおとしてやる。
 サラダボウルに顔をつっこむ頃には食べるのもすっかり上手くなっていた。カーランが見つめる前で日向はそれを残さずに食べ、顔を上げて唇を舐めた。カーランは日向の頭と背中をなで、顔にのこった野菜の切れ端とドレッシングをきれいにとってやった。
「…足りたか?」
 日向は言葉を忘れてしまったかのようにぼんやりうなづいた。そして皿をトレイの上に積み上げるカーランの背中に不意に抱きついた。カーランは手を後ろに回して日向を撫でた。
「よしよし。」
 言葉にならない悶え声をたてて、日向が身をすりよせる。カーランは向きをかえてこの大きな猫を抱くと、そのままベッドに倒れこんだ。首筋やら顔やらめちゃめちゃに吸う。両手で日向の頬から首、肩、胸、脇と包むように愛撫する。日向はカーランの肩を甘咬みしてさかんに悶えた。カーランがエプロンの紐を解くと、身をねじってそれを脱ぎ落とした。黒いシーツの上で裸の猫が足を開く。かたくなったものをカーランの腿にぐいぐいおしつけてきた。カーランは日向を仰向けにしたまま一旦身を離し、Tシャツを脱いだ。日向が手をのばしてきて勝手に下半身をむきだしにしていく。勢いよく飛び出したそれに、日向がむしゃぶりついた。
 日向は動物の子供のようにカーランに鼻をおしつけ性急に舌を動かした。カーランが頭を撫でてやると、日向は上に這い上がってきて、もどかしげにカーランにまたがり、我が物顔で足の間の塊をカーランにこすりつけた。カーランが手を滑りこませてそれを握ってやると、日向の喉は震えて鳥の鳴き声のような音をたてた。
「…あ…カール…」
 やっと言葉が使えるのを思い出したかのように日向が呼んだ。
「何だ…?」
 うっとり聞き返すと、日向は震えながら尋ねた。
「しっぽ…しっぽ外しても…い…いいですか…」
「だめ。」
「いやっ…あんっ…んっ…」
 日向は激しく首を左右に振った。
 カーランの手の中で熱くなったものはどきどきと脈打ち、先端からはたらたらと透き通った液を漏らしている。ちょうどその背中側に、しっかりとささりこむ形で生えている黒い尻尾は、日向が動くたびに日向自身の太腿の裏をくすぐり、そしてカーランの下腹や足をくすぐった。そのふわふわの感触に、二人ともなにやら腰が今にも砕けそうだった。
 カーランは握った手をそっと緩めてずらし、先端のぬめる部分を親指の腹でくるくる撫で回してやった。
「あああっ…」
 日向は前かがみになった。潤んだ目を見開いて、息を詰めている。
「イきそうか?」
 日向は眉根をよせてうなづいた。
 そして絶え入るような声で哀願した。
「…お願いカール…抜いて下さい…尻尾…お願い…」
「どうして…?気持ちいいだろう?」
 カーランは指で更に少し中にそれを押し込むと、日向の尻をさらさらと撫で回した。
「カール…んっ…嫌…カールのがいいのです…」
「…ん?何だって?」
「…カールの…カールのがいい…」
「聞こえない」
「意地悪!」
「おまえほどじゃない。」
 カーランは日向をひっくりかえして腰を引き寄せ、尾を挟む両方の丸みに唇をつけた。柔らかく垂れる偽の毛皮を弄ぶと、その一端をしっかりとくわえこんだピンクいろのすぼみは、愛撫に応えるかのようにひくひくとうごめく。
 たまらなくなって自分で引き抜こうとのびてきた日向の手をカーランはそっと捕まえて、身動きできなくなるように日向の体を抱きすくめた。じれてよじれる日向を愛おしげに抱きかかえ、暴れる体を封じ込めると、日向はカーランの腕に噛み付いた。
「痛っ ! 」
「カール ! 早く ! 」
 行為の荒々しさとは裏腹に声が震えている。 
「…はやく…! 」
 泣き出しそうにせかす日向。
 カーランは腕を緩めて日向をシーツの上に預ける。
「…ずっとそういうお前を見ていたいんだ。…本当は…ずっとずっと見ていたいんだ…いつまでも…」
 柔らかな尻尾の根元を掴んで、カーランはずるずると引き抜いてやった。
「はああっ…ああ…ああ…ああああ…」
 日向は肩をきゅっと竦めてそのたまらない感触に耐えた。
 呼吸回数を上げて、崩れそうな体をなんとかもちこたえさせている日向を、カーランはうつ伏せにする。さんざんふわふわな刺激で蕩けた部分に、胡乱な成分入りとかいうジェルを丹念に塗りこむ。日向の悶え声がだんだん悲鳴のような泣き声のようなものに変わっていく。…効いているらしい、胡乱な成分。
「…ここにいろ日向…明日も明後日もそのつぎも…朝も昼も…夜も…。」
 ねだりつくしたものが強く入り込んできたとき、日向は声にならない悲鳴を上げた。
 カーランは一度奥まで入れてから、方向をさぐるように注意深く日向の腰の高さを変えた。日向はもはや自分の腕に顔を突っ伏して、カーランに促されるまま膝をたてて腰をあげているのが精一杯で…そうしてぬいぐるみの柔らかい尾の代わりに固くて熱いカーランの性器をはめられて…倒錯した歓喜に泣きじゃくった。
 ジェルの具合はきわめて良好で、ふたりの結合部分を面白い程するする動かしてくれた。カーランは初めはゆっくりと、それから小刻みにはやく突いた。日向の可愛い尻が揺れるのをなにか熱い気持ちで見つめるうち、箍が外れた。次の瞬間、ぶつかりあう体が滑稽な音を立てるほどに激しく、大きくカーランは突き上げ始めた。 くり返し高熱の肉棒に内側を襲われて、日向は泣き狂った。カーランの深い早い呼吸を聞きながら日向は陶酔の波に溺れ、どれほど喘いでもおいつかない苦しみの中で、大きく挿出をくり返す熱い塊のリズムに、全てを奪われ尽くした。
 日向が気絶しそうな長い光輝の時間の果てに自分を散らせて、本当に気を失いそうになっても、カーランはまだ日向の中で動いていた。日向はそうして本当にその後の記憶を持っていないのだが、カーランはそのぐったりとした細い少年の体をさらに激しく奪いつづけた。大人しくなった日向を上に乗せて好きに折り畳み、またシーツに横たえてひっくりかえし…柔らかいぬいぐるみの耳に頬をつけて…
 このままでは冗談でなく殺してしまう、と我にかえってカーランが日向を放したとき、部屋の中は初夏の太陽で異常な熱気となっていた。体も汗にまみれだった。
 ベッドの日向の美しい裸体をシーツとケットをかけて隠し、カーランは空調のリモコンを拾った。
 エアコンは音をたてて急速に部屋を冷やした。

「…ええと、じゃあ、ヨーグルト。」
「ん」
 目をさました日向は冗談でなしに足腰たたなくなっていた。カーランは空腹を訴える日向のために遅いランチを用意してやり…ベッドで今度は真面目に食べさせてやっている。自分は残り物のライチをつまみつつ。
 日向は意外なことに、機嫌よくたくさん食べた。
「やー、うれしいです。カールにあーんさせてもらってv」
「はいあーん。」
「あーん。」
 金輪際スプーンを要求する気はなさそうだった。エアコンの元で頭の冷えたカーランはいささか赤面ものだったが。
 暑がりのジェスが冷気を求めて珍しく二人のそばにのびていた。
「…ジェス、一緒に食べないかしら。」
 日向は言った。
「…犬がヨーグルトなぞ食うものか。」
「わかりませんよー?あなたシグルドの大福のときだってそう言いましたものね。」
「俺が苦労して躾けているのに、奴らを変な食い物で誘惑するのはやめてくれ。」
「ジェス、いらっしゃいジェス。」
 日向が呼ぶと、ジェスはピクリと耳を上げたが、まもなくそのまま下げた。
「…よく躾けてありますよね。」
「…やはり味方になってくれるのは犬だな。」
 カーランは少し勝ち誇って笑った。
 日向は食事が済むと風呂を要求した。カーランを奴隷よろしくこきつかって楽しんでいるらしい。カーランは風呂を湧かしつつも、少し抗議した。
「…具合悪いなら風呂なぞやめて大人しく寝てりゃいいのに…」
「あらあ?カール、下の世話までしてくれるんじゃなかったんですか?」
「…」
 返す言葉もない。ニヤニヤ笑う日向。
「あんなとんでもない愛の告白をする人には今後二度と出会えないことでしょう。」
「…どうだかな。」
 負け惜しみを言ってみる。
 日向は手をのばして床にのびているジェスの腹を撫でた。
「あらあ、やだジェスったら、こんなにいっぱいおっぱいつけてフフフフフv」
「…ひゅーーううが。」
「カール…あのね、わたし、…」
「…?」
 …日向はけげんそうにするカーランを見上げて、にっこり笑った。  
「…ジェスとお揃いの首輪が欲しい。まけないですよ、犬には。」 
 最高気温が35度を超えた、ある土曜の昼下がりだった。


めまいした...。